呉織・漢織(クレハトリ・アヤハトリ)
池田には応神天皇のころ、大陸から呉織・漢織の2人の織り姫がこの地に渡り、織物や染色の技術を伝えたという伝説が残っています。
この伝承は、一般には、『日本書紀』応神(おうじん)天皇37年条に、阿知使主(あちのおみ)・都加使主(つかのおみ)を呉に遣わして縫工女(きぬぬいめ)を求め、呉の王から呉織・漢織らを与えられたという記述を題材にしたものだと考えられています。
※ 『日本書紀』 「巻第十 誉田天皇(ほむたのすめらみこと)応神天皇」「巻第十四 大泊瀬幼武天皇(おおはつせのわかたけのすめらみこと)雄略(ゆうりゃく)天皇」に、この縫工女招致に関する伝承が収められています。 『国史大辞典 4 き‐く』によると、「ただし、応神紀・雄略紀のこれらの織工女の記事は、同じ内容のものを分けて記したか、あるいは前者は後者の記事の混入ではないか、といわれる。」とあります。
※呉織は呉服、漢織は穴織とも書きます。「はとり」は機織の意です。(『国史大辞典 4 き‐く』p952 くれはとり・あやはとり)(『日本歴史大辞典 1 あ‐う』)
池田市内には、この機織伝承ゆかりの旧跡が各所に残されています。2人の織姫を乗せた船が着いたところが<唐船が淵>(新町~木部町、猪名川のカーブした辺り)、糸を染めた井戸が<染殿井>(満寿美町)、絹を干したのが<絹掛の松> (畑)、機を織ったのところが<星の宮>(建石町)、2人が葬られたとされる墓が<梅室・姫室>(槻木町~室町あたり)、そして呉織が祀られたのが<呉服神社>(室町)、漢織が祀られたのが<伊居太神社>(綾羽)とされています。
池田の市章はこの伝説を元にしています。外側の井桁は<染殿井>を、内側の糸巻きは織り姫たちが織物に使った糸巻きを表しています。
『池田市史 概説篇』には次のような記述があります。「呉織・漢織が池田に来て織物技術を伝えたとされていますが、日本書紀にはこのような記述はなく、この伝承がいつ、なぜ、どのようにして誕生したのか、はっきりしたことはわかっていません。」
この伝承がいつ頃できたか確定する史料はありませんが、元禄14年(1701)にできた『摂陽群談』や寛政10年(1798)刊行の『摂津名所図会』などに、この伝承に関する記述があることから、江戸時代前期までには現在伝えられているような姿になっていたと考えられます。呉織・漢織の伝承は、池田だけに伝えられたものではなく、例えば西宮市にも同様の伝承が残されていますが、池田のように完成度の高い伝承として現在まで伝わったものではありません。
<関連事項>
呉織・穴織 /唐船が淵 / 染殿井 /絹掛松 / 星の宮 / 姫室・梅室 / 呉服神社 / 伊居太神社
関連資料(部分記述を含む)
クレハトリ・アヤハトリ 池田に伝わる機織りの伝承 池田市立歴史民俗資料館 2018 388.163
池田・昔ばなしと年中行事 広報公聴課 池田市役所 1982 C388.1 (児童書)
まんが池田の歴史 池田市教育委員会 2000 C216.3(児童書)
大阪府の民話(県別ふるさとの民話 33) 日本児童文学者協会/編 偕成社 1982 C38(児童書)
■「星月夜の織姫」 p156-
日本の伝説(第1期)8 大阪の伝説 庄野栄二/他著 角川書店 1976 388.1
■呉織・穴織、呉服神社、染殿井、兼好松、絹掛松、唐船が淵、絹延橋 についての記述あり p112
池田市史 概説篇 池田市史編纂委員会 池田市役所 1971 216.3
池田学講座 池田市教育委員会 2008 216.3 B10963940
■「クレハトリ・アヤハトリの伝承」 p120
■「池田の経塚」(姫室・梅室) p56-
池田歴史散歩 室田卓雄 いけだ市民文化振興財団 1999 291.63
摂陽群談(大日本地誌大系 25) 岡田蹊志 雄山閣 1930 291.08
摂津名所図会 6(上) 秋里籬島/述 田村九兵衛 1796-1798 291.63
倭の五王とその時代 池田市立歴史民俗資料館開設10周年記念 池田市立歴史民俗資料館/編 池田市立歴史民俗資料館 1990 216
■アヤハ・クレハの物語 p6-8
御影史学論集 18 御影史学研究会/編 御影史学研究会 1993 051
■ 「織姫伝承の成立について -池田市に伝わる機織り伝承の形成-」 室田卓雄/述 p1-16
民俗の歴史的世界(御影史学研究会民俗学叢書 7) 御影史学研究会/編 岩田書店 1994 380.4
■「織り姫伝承と秦氏」 室田卓雄 p197-212
大阪春秋17 大阪春秋社 1978 (雑誌)
■座談会「池田を語る」 林田良平/談 p36-49
大阪春秋17 大阪春秋社 1978 (雑誌)
■「伊居太神社と呉服神社と」 久志本秀夫 p50-51
大阪春秋42 大阪春秋社 1985 (雑誌)
■「池田呉服神社の月前祭」 林田良平 p36-37